エレファント

・エレファント/監督:ガス・ヴァン・サント
        主演:ジョン・ロビンソン


カンヌ国際映画祭初のパルムドール・監督賞ダブル受賞作品。アメリカ・コロラド州のコロンバイン高校での銃乱射事件をモチーフに、事件に巻き込まれた生徒達を描く。」


はっきりいってこの映画、上の文章だけで完結しちゃうんですよね。乱暴に言っちゃうなら見ても見なくてもいい映画。どういうことかと言うと、例えばコロンバイン高校がモチーフだ、と聞いた人はその時点で、事件の中のなんらかの側面に眼を向けますよね。例えば、犯人グループの動機であるとか、それを起こさせるような社会的構造の問題、ムーアなんかはそこで銃社会の糾弾というアプローチをとったわけです。人によって事件を思い浮かべて、知りたい・解明したい・非難したいポイントが異なるはずなんです。
映画を見る前に持っていた、自分の感性・理性から導き出された事件へのイメージ、悪くいうなら先入観、よく言えば純粋で透明な視線、それらはこの映画を鑑賞したとしても、そうドラスティックに変化することは少ないだろうな、という印象でした。
本作品において、監督をつとめたガス・ヴァン・サントは、この映画にメッセージを盛り込もうとする意図はない、という主旨のことを述べています。
その言葉を象徴するかのように、登場人物を偏ることなくスクリーンに映し出し、かつ明確な結末が提示されずに映画は終わります。また本作では登場人物が歩いている姿を背後から映すショットが非常に多く、さらにその歩く時間は他の映画では考えられないほど映画のなかで多くの部分を占めています。
歩く時間を長く映すことによって、ガスは観客に事件・映画・登場人物について様々な考えを思い巡らせるよう仕向けたのだそうです。本作では、巧みにセリフをつなぎ、シーンをカット・つなぎ合わせることによって観客に時間の経過を理解させるという映画製作の常識的な手法をあえてとらなかったというわけです。
また登場人物が歩き・すれ違い・会話を交わすシーンを長い間見せられていると、それだけシーンとシーンの連続性が際立ち、それは後半におこる銃乱射の描写でさえもが、それ以前の日常の学校の風景と、不断につながった延長線上の出来事であるかのような錯覚にとらわれます。
ここで錯覚という言葉を用いました。しかしそれが錯覚ではないということこそ、ガスがこのような撮影手法をとることによって本作で伝えようとしたことの一つなんだと思います。
つまり、ガスはこの映画にメッセージ(犯人の動機・社会の不合理さ・犠牲者の悲劇等の主題)を盛り込まなかったと言いましたが、「惨劇は日常の延長線上にすぎなかった」という一点に関しては鮮明に感じることが出来ました。
しかし、最初に書いたように、この点がわかったところで、鑑賞者が事前に抱いている事件に対する考え方に大きな変化を及ぼすとは、僕には考えづらいわけです。
もしかしたら、僕がはじめに抱いていた事件への印象が、ガスの抱くものとそう大きく異なるものではなかっただけかもしれないですが。
評論家はすごくこういう映画が好きそうですね。逆にこれを単館系上映ということでとどめた配給会社の選択は正解だと思います。全国興行してたら客入らなくてやばかったでしょう。でも、そのときは主演のジョン君はすごく人気でたと思います。めっちゃきれいですもん。
つまらなくはないです。でも面白いとは絶対言えません。悪い意味ではないけど、星をつける種類の映画ではない気がします。
評価:★★★★★(星0)